ラン・ジャマール・ラン! / 「スラムドッグ$ミリオネア」

現時点では、今年見た映画のベスト。 子供たちとともに疾走するカメラ、 カオティックなインドの光景、 巧みな構成の脚本の芯にある、瑞々しさと強度を兼ね備えたシンプルな物語、鮮烈な作品だ。 「運命」(Destiny/It is written)という言葉がキーワードと…

The story must go on / 「The Fall 落下の王国」

『ざくろの色』と『ミツバチのささやき』を適当に掛け合わせ、適当に希釈した、そんな映画なのではないかと不遜にも思っていた。 遅まきながら、『The Fall 落下の王国』を見た。 劇場公開時には、世界各地にロケした壮麗な映像美や石岡瑛子のファンタジック…

カーウァイとタランティーノが惚れた男 /「たそがれ清兵衛」

…と書いてみると凄くカッコイイなぁ、サナー。こと真田広之。上映中の『サンシャイン2057』では宇宙船の船長役だが、あれは『たそがれ清兵衛』を見たウォン・カーウァイがダニー・ボイル監督に推薦したらしい。さすが見ている人は見ている。そうか、真田広之…

メガネ男子VSメガネをとったら王子様 /「怪盗ルビイ」

最近の小泉今日子を見るたびに「昔のキョンキョンは革命児的アイドルでキラキラしてたのになー。もにょもにょ。」とか思っていたのだが、『ルビイ』を久々に見直してみたら、あら、こんなもんだっけキョンキョン!?ヴィヴィアン・ウェストウッドやビバユー…

キレそうな僕の弁護士ライフ /「ジャスティス」

アル・パチーノ若き日の、傑作になりそうな匂いを漂わせながらなり損ねてしまった作品。ジャケットの印象から正統派法廷サスペンスを予想しているとかなり裏切られる。弁護士版『ER』というか、熱血弁護士青春記…なのです(フジテレビ月9枠でやったら当るか…

アメリカン・ドリーム30年史 /「ロッキー・ザ・ファイナル」

※先行上映で鑑賞『ロッキー』って、実は地味に丁寧に描かれた良質な青春映画なのですよね。 その第一作のタッチとスピリットに立ち返った、愛すべき“ラスト・ソング”です。当時を思わせるザラッと粒子の粗いカメラ、数々の名シーンやアイテムが再現されてい…

「Girly」と呼ばないで /「君とボクの虹色の世界」

ああ。とんちきなマスメディアのミスリードのせいで、こんな映画だとは思っていなかった。 「ポスト・ソフィア・コッポラ」とか「ガーリー・ムービー」というキャッチは商売上は有効なんだろうけど、監督&主演のミランダ・ジュライはソフィアよりずっと才能…

あなたはいつあなた自身になるのです /「マリー・アントワネット」

「少女」と書いて「マリー・アントワネット」とルビを振り「わたし(=ソフィア・コッポラ)」と読む、みたいな。 ソフィアって人は自分(=マリー)にしか興味が無いんだろうなぁ。だから脇にいい役者たちを配しながら、その全ての役を描き損ねている。 『…

色んな意味でプレゼン上手 /「不都合な真実」

もう政治の世界には戻らないと言っているアル・ゴアだが。これは(意図的なものか否かはさておいて)どう見ても彼のプロモーションビデオだ。お供の者も連れず一人でキャリーケースを引きずりながら講演旅行を続ける姿が何度かインサートされ、“インディペン…

生真面目な東洋人の肖像 /「キス・オブ・ザ・ドラゴン」

小賢しい演出や恋愛物の要素やワイヤーアクションを極力排し、ストーリーもカメラもジェット・リーの神業的体技を見せることにシンプルに奉仕している。寒々としたグレーのパリの街はアメリカを舞台にした作品よりもずっとジェット・リーに似合う。「追い詰…

スパイ仕様のPCって? /「007/カジノ・ロワイヤル」

Mを気取れば、「及第よ、でも次は更に上手くやりなさい」。これの前にDVDで見た映画版『マイアミ・バイス』の駄作ぶり(もたもた弛緩した編集、主役コリン・ファレルのチンケさ)と比べれば、ずっとスマートに上手くまとまっている。 オープニングタイトルに…

幻の映画と再会! /「アルターフ 復讐の名のもとに」

※2000年にインドで見た映画について、再見せずに書いてます。 もう一度見たい…と6年越しで切に願っていた作品がDVDに。わーい!原題は『Mission Kashmir』。文字通りカシミール紛争をネタにしたアクション超大作。コーチンという街で食堂のおじさんに薦めら…

ウジウジしてこそ男じゃけん /「ウィンター・ソング」

「男はいつでも恋ではアマチュアだ」 (『隣りの女』byトリュフォー) …みたいな映画でしたよ、またまた。 ミュージカルというよりコテコテの恋愛映画。 ミュージカルというよりコテコテの香港歌謡映画(ジャッキー・チュンの歌は聴きモノ)。チャン・ツィイ…

「泣ける」だけが「感動」じゃないじゃん /「ナイロビの蜂」

せっかちなところのある私は疾走感溢れる映画が好き。 だけどこの作品を流れる時間、その悠揚迫らずかつ弛緩することのないテンポは実に心地良く、久しぶりに映画を「堪能」したという気がした。正統派メロドラマと、サスペンスと、搾取され続けるアフリカ大…

女の子って、野太くて健気 /「フラガール」

映画見巧者の友人が「10年に一度の傑作」と書いていたので期待しすぎちゃったかも。 私の評価は「傑作ではなく佳作」。佳作と呼べる映画だってそうそう転がってはいないけど。“ウェールズ炭坑モノ映画”には何故か佳作が多いのだが(『リトル・ダンサー』や…

可愛いだけじゃダメかしら /「プラダを着た悪魔」

ザ・OL映画。 That's all. きっちり責任を負って本気で仕事をしている女性にはヌルイ映画だと思う。 ほどほどに真面目に働き、ほどほどに甘え、会社の愚痴に花を咲かせている女子を「もうちょっと頑張ろう!」と一瞬前向きにさせる…そのへん狙いですな。 …

緑色のエロス /「欲望の翼」

驟雨に煙る緑の森。 ザビア・クガートのルンバの調べ。 片想いのロンド。 それに尽きる映画だ。 カーウァイとクリストファー・ドイルの名を知らしめた60年代トリロジーの序章。『恋する惑星』『天使の涙』に先がけたカーウァイ的青春映画の序章でもある(デ…

大人になった。映画になった。 /「インサイド・マン」

スパイク・リーは(オリバー・ストーンも)「映画を撮るのでなく“テーマ”を撮る監督」という感じで嫌いだった。 でもこの作品で印象修正。ちゃんと「映画を撮って」いるじゃないか。ここのところめっきり「スパイクといえばジョーンズ」みたいな流れになって…

お父さんモノ映画としては悪くない /「グエムル」

2004年に見た映画でベストだったのがポン・ジュノの『殺人の追憶』。はがゆい宙吊り感の、“気持ち悪さが気持ちいい”傑作だった(これとパク・チャヌクの『親切なクムジャさん』が私の韓国映画2トップ)。 彼の新作ということで期待MAXで見たのだけれど…もう…

子供はつらいよ /「Dearフランキー」

“映画の友”であるカワイタクヤの評が五つ星だったので見てきた。ウェールズやスコットランドは、子供をダシにしない良質な子供(が主役の)映画が巧いなぁ。この国らしい曇天やひんやりした空気、かつては活気づいていただろうけれど寂びれだした街並み、そ…

何が欲しいって執事 /「バットマン ビギンズ」

「全ての鍵を握っているのは執事」という英国文学の伝統がここに! マイケル・ケイン演ずる執事アルフレッドの洒脱で頼れる“影の主役”ぶりにうっとり。 今まで嫌いだったゲーリー・オールドマンも初めていいと思った。キレる演技というか、どこかで見たよう…

タフガイはいつもおセンチ /「ミリオンダラー・ベイビー」

ボクシング映画ではなく、“父(たち)と娘”の物語。 「映画作家イーストウッド」の非ハリウッド的な容赦無い冷徹さと、「男クリント」の優しさが紡ぎだす、厳しくて美しい映画である。Tough ain't enough という言葉が全てを語っている。 イーストウッドは監…

ひと筆描きの妙 /「コーヒー&シガレッツ」

久々に、隅々までジャームッシュな映画。 オムニバスなので眠くならないしね。 discommunicationという本来辛くて重いテーマを(かみあわない会話・すれ違う気持ち。ここでは誰もが名前を正しく呼んでもらえないのだ)、そこはかとないおかしみを漂わせなが…

この温かさは永遠だった /「天使の涙」

最初に劇場公開された時に5回見に行ったという人と見た。 私も昔から大好きな映画。 トニー・レオンこそがカーウァイ作品に絶対不可欠な存在だと思うのだが、残念ながら『天使の涙』には彼は出演していない。 彼が出ていないのにカーウァイ作品でこれが一番…

脂肪で飛べないピーターパン /「アビエイター」

あら、駄作。無駄に大作。時の流れもスケールの大きさも華も感じさせない。 ケネス・アンガーのノンフィクション『ハリウッド・バビロン』を読んだほうがずっと、当時のハリウッド人種の狂気じみた豪奢と頽廃がうかがえてワクワクする。 飛行シーンも高揚感…

初々しいヤンキー系恋愛映画 /「トゥルー・ロマンス」

『エターナル・サンシャイン』の感想に関してはマイノリティみたいです私。 私だって“胸キュン”したかったんだけど。 じゃあ私が「キュンときちゃう」恋愛映画は? ということで思い出すのは例えばこれ。 チンピラ青年と立ちんぼ娼婦の爽快な“純愛”もの。 ク…

記憶のイガイガ /「エターナル・サンシャイン」

まず、カメラがそそらないのだ。官能的でもロマンティックでもなく、 疾走感もなければ優美さもなく、 息苦しいような緊密さもないし、せっかく冬の海や凍りついた川を登場させながら冷たい風が吹き込んでくるような空気感・開放感もない。 ゾクゾクするよう…

アルゼンチンの香港飯 /ブエノスアイレス

トニー・レオンはいつでもどの映画でも、ひとり猫背で香港メシをかきこんでいる。ブエノスアイレスに来たってそうだ。ロードムービーになるかと思わせながらそうはならず、ウォン・カーウァイ(とクリストファー・ドイルのカメラ)はブエノスアイレスを接写…

重慶マンションから遠く離れて /「2046」

一人の女の記憶に囚われて、ゆるやかに自殺していく男の物語である。「哀しみの男」という美しい形容詞で語られるトニー・レオンは、ワタシ流に言えば「(二枚目で主役なのに)いつもしてやられる男」だ。そんなツイテない男の顔と佇まい、一人の映画俳優の…

ニコラス・ローグはこの処女作だけでいい。かも。 /「WALKABOUT」

オーストラリアの砂漠に放り出された14歳の英国人少女と幼い弟が、成人の儀式として放浪するアボリジニの少年に出会う。その地に生まれその地に還っていく者(少年)、旅人/通過者(少女)、そして彼らの“通訳者”(弟)との共感と齟齬に満ちた旅が寡黙に濃密…