アルゼンチンの香港飯 /ブエノスアイレス

トニー・レオンはいつでもどの映画でも、ひとり猫背で香港メシをかきこんでいる。ブエノスアイレスに来たってそうだ。

ロードムービーになるかと思わせながらそうはならず、ウォン・カーウァイ(とクリストファー・ドイルのカメラ)はブエノスアイレスを接写で香港の下町のように撮る。トニー・レオンが居れば何処でも、そこがカーウァイの世界なのだ。そしてまた、“ロード”に出なくても「動いている」感じが途切れないのがカーウァイの世界。


私はドイルの撮る滲んだような赤いネオンと夜明け空の淡いブルーが大好きだけれど、この映画では時々挿入されるマット・ゴールドに近い「黄色」が印象的だ。


ゲイの泥沼恋愛映画として公開当時は観客の拒絶反応も大きかったようだが、深く深く、どうしようもなく誰かを好きになったことがある者なら胸を衝かれるものがあるのではないだろうか。

旅立つ職場の後輩(チャン・チェンが初々しさとスケール感を漂わせとてもいい)に「テープレコーダーにメッセージを入れて」と渡され、吹き込もうとして嗚咽してしまうレオンの演技が素晴らしい。

小さな小さな希望がかすかなかすかな幸福感を生むラストの余韻は『天使の涙』に通じるものがある。
(2005 4/5 文化村ル・シネマでカーウァイ特集として上映)

ブエノスアイレス [DVD]

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