緑色のエロス /「欲望の翼」
驟雨に煙る緑の森。
ザビア・クガートのルンバの調べ。
片想いのロンド。
それに尽きる映画だ。
カーウァイとクリストファー・ドイルの名を知らしめた60年代トリロジーの序章。『恋する惑星』『天使の涙』に先がけたカーウァイ的青春映画の序章でもある(デビュー作『今すぐ抱きしめたい』は日活アクション映画風で毛色が違う)。
「青春」だから、アジアの湿度だから、登場人物がみな自分の中の柔らかさを持て余しているから、映画は終始、瑞々しく濡れている。
『インファナル・アフェア』でトニー・レオンを陥れて私の怒りを買ったアンディ・ラウ(ちゃっかりアンディとうっかりトニー…)、彼を好ましく思えた数少ない作品でもある。いつもは鍛え上げた体に隙の無いスーツの似合う彼がここでは寡黙で優しいパトロール警官の役で、寸の詰まったアイドル顔の主役レスリー・チャンより遥かに魅力的なのだ。
アンディと失恋娘マギー・チャンが夜道を歩きながらつかの間淡く心を寄り添わせるシーン、彼が彼女に言う「人と比べることなんかないさ」という使い古された言葉の暖かさが胸に沁みる。
香港の猥雑な熱気が次第に亜熱帯の官能的な緑色に染め上げられてゆく99分。
(2006 10/26)
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