「泣ける」だけが「感動」じゃないじゃん /「ナイロビの蜂」

せっかちなところのある私は疾走感溢れる映画が好き。
だけどこの作品を流れる時間、その悠揚迫らずかつ弛緩することのないテンポは実に心地良く、久しぶりに映画を「堪能」したという気がした。

正統派メロドラマと、サスペンスと、搾取され続けるアフリカ大陸の悲惨と。分離しそうな危うい三つの要素が(あくまでもエンターテインメントとしての枠組みの中で)違和感無く収まっている。

“涙とセットの感動”とは異質なImpressionを味わわせてくれる、最近では稀少な作品だ。

シティ・オブ・ゴッド』の監督ならではというか、疲弊と熱気を同時に感じさせるキベラ=巨大スラムの描写と、薔薇色の湖や広大な草原との対比も印象的。


他部族の襲撃から逃れて国連のセスナに乗りながら、職員以外は連れていけない、いや連れていけ…という男たちのやりとりのさなかに自らある行動をとる幼い少女の姿が胸に迫る。かつて私がエリトリアの難民キャンプで出会い、何も力になれなかった(ならなかった)子供たちのことが否応無く思い出された。


難点があるとしたらヒロインのキャラクター。純粋で聡明ということらしいが「聡明」に関してはかなり疑問、美人であることに救われているだけとも言える、ある意味かなり嫌な女なのだ。 登場シーンではヒステリックに正論を言い募った挙句泣き出し、パーティーでは政治家や企業家に無駄に挑発的な皮肉を投げつける。巨悪に立ち向かうつもりならあまりに感情的で浅はかだ。 勇気とヒューマニティだけでなく、知恵も人脈もワイロも、持てるもの全てを総動員して闘った『ホテル・ルワンダ』の主人公には共感できたけれど。


ビル・ナイは『ラブ・アクチュアリー』の泉谷しげる+キース・リチャーズ的な老ロッカーから今回の冷酷なエスタブリッシュメントまで、見事な千変万化を見せてくれる。


ジョン・ル・カレによる原題『The Constant Gardener』と邦題、どちらもウマい珍しい例だ。
(2006 11/27)

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