The story must go on / 「The Fall 落下の王国」

ざくろの色』と『ミツバチのささやき』を適当に掛け合わせ、適当に希釈した、そんな映画なのではないかと不遜にも思っていた。


遅まきながら、『The Fall 落下の王国』を見た。


劇場公開時には、世界各地にロケした壮麗な映像美や石岡瑛子のファンタジックな衣裳ばかりが喧伝されていたけれど、これはむしろ、シンプルで美しい「お話」に支えられた正統派の映画であり、「物語による回復(語ること/物語に身を任せることで傷から癒えていく)」という古典的テーマと普遍的文体を映像で描ききった作品だった。


冒頭から映像とストーリーに惹きこまれながらも、途中まで(バリ島のケチャが登場するあたりまで)は、“エキゾチシズム好きの欧米人ウケを狙ったお洒落コマーシャルフィルム”みたいなものを見せられて終わるのではないかという危惧がつきまとっていた(監督のターセムは広告の世界で名を馳せた人だ)。

が、次第に物語と現実が侵食しあい、「語り部」である青年も、物語も、現実も、映画自体も、「聞く者」であった5歳の少女に引きずられ、変化し、ついにある結末を迎える。

ハッピーエンドであれ悲劇であれ、物語はそれがどんなに魅惑的でも、「おしまい」に辿り着かなければ物語たりえない。
次なる未知の「お話」を始めるためにも、それは必ず終わらせなければならないのだ。


では、語り終えた青年には何が待っていたか?
アメリカ映画の歴史をある程度知る者ならば思わず微笑んでしまうような“オチ”をもって映画はそれに答え、幕が下りる。

幸せな余韻。

ザ・フォール/落下の王国 特別版 [DVD]

ザ・フォール/落下の王国 特別版 [DVD]