何が欲しいって執事 /「バットマン ビギンズ」
「全ての鍵を握っているのは執事」という英国文学の伝統がここに! マイケル・ケイン演ずる執事アルフレッドの洒脱で頼れる“影の主役”ぶりにうっとり。
今まで嫌いだったゲーリー・オールドマンも初めていいと思った。キレる演技というか、どこかで見たような凡庸な“狂気”しか見せてくれなかったこの人が、“正気”の誠実な男をさりげなく演じている。人って大人になるのね…。
渡辺謙は完全に添え物、お飾りでしたが。
実は意外にサスペンスフルなところの無い映画で、中盤のカーチェイスなども長くて中だるみするのだが、よく出来たブラック・コメディとして退屈はさせない。
おじさん役者を楽しもう。
(2005 6/23)
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タフガイはいつもおセンチ /「ミリオンダラー・ベイビー」
ボクシング映画ではなく、“父(たち)と娘”の物語。
「映画作家イーストウッド」の非ハリウッド的な容赦無い冷徹さと、「男クリント」の優しさが紡ぎだす、厳しくて美しい映画である。Tough ain't enough という言葉が全てを語っている。
イーストウッドは監督デビュー作『恐怖のメロディ』から長い時を経てやっと、“自分の闘いは自分でやる”二人目の女を生みだした。そして『恐怖〜』では追ってくるその女(文字通りのストーカー、妄想に憑かれた殺人鬼)からひたすら逃げていた彼が、この映画で初めて女を正面から受け止めたのだ。無駄に70年以上男をやってませんでしたね。
ヒラリー・スワンクもモーガン・フリーマンもいいが、これはやはりイーストウッドの佇まいと面構えを堪能する映画だと思った。背中のあたりに隠しようのない老いを感じてちょっと寂しくなってしまったのだが、その老いもコミで素晴らしい役者ぶり、男ぶり、サバイバーぶりだ。
惜しむらくは。イーストウッドの作る音楽はいつもおセンチすぎる!ということ。
(2005 6/1)
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ひと筆描きの妙 /「コーヒー&シガレッツ」
久々に、隅々までジャームッシュな映画。
オムニバスなので眠くならないしね。
discommunicationという本来辛くて重いテーマを(かみあわない会話・すれ違う気持ち。ここでは誰もが名前を正しく呼んでもらえないのだ)、そこはかとないおかしみを漂わせながら一筆描きのように描いてみせる。ジャームッシュってすごく大人なのかもなぁと思った。
豪華キャストだが、第一話のロベルト・ベニーニの「芸人芸」が秀逸。イメージに反して“腰の低いいい人”なパーソナリティを見せるイギー・ポップもなかなか。二役のケイト・ブランシェットも『アビエイター』のオーバーアクトよりずっと魅力的。
まずそうなコーヒーばかり出てくるのにコーヒー飲みたい!と思わせる。
豊かなるモノクロカメラ。
(2005 4/27)
コーヒー & シガレッツ (初回限定生産スペシャル・パッケージ版) [DVD]
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この温かさは永遠だった /「天使の涙」
最初に劇場公開された時に5回見に行ったという人と見た。
私も昔から大好きな映画。
トニー・レオンこそがカーウァイ作品に絶対不可欠な存在だと思うのだが、残念ながら『天使の涙』には彼は出演していない。
彼が出ていないのにカーウァイ作品でこれが一番好きという矛盾。
金城武のイノセントな存在感が“カーウァイ作品の青春期”(『天使の涙』『恋する惑星』)の象徴だったんだなぁと改めて思う。
この淡くせつなく清々しい幸福感は『ブエノスアイレス』のラストにもかろうじて残っていたが。
金城武の出なくなった『天使』後のカーウァイ作品は、とても美しいがとても悲しい。
(2005 4/16 文化村ル・シネマでカーウァイ特集として上映)
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脂肪で飛べないピーターパン /「アビエイター」
あら、駄作。無駄に大作。
時の流れもスケールの大きさも華も感じさせない。
ケネス・アンガーのノンフィクション『ハリウッド・バビロン』を読んだほうがずっと、当時のハリウッド人種の狂気じみた豪奢と頽廃がうかがえてワクワクする。
飛行シーンも高揚感皆無だし。
スコセッシにはゴージャスな世界は向いてないなぁ。
デカプリオは裁判所の舌戦シーンなどで頑張っているものの、童顔と変声期以前っぽい声がやはり致命的で、脂肪がついて飛べなくなったピーターパンみたいになってきている。
ケイト・ブランシェットは品のいい芝居をする素敵な女優なんだけど、今回のキャサリン・ヘプバーン役ではオーバーアクト。
特別出演的なエロール・フリン役のジュード・ロウははまり役。
ウィレム・デフォーがチョイ役ですぐ消えてしまうのと、かつてはジョージ・クルーニー的立ち居地にいたはずのアレック・ボールドウィンが太っていたのにはびっくり(でも貫禄あるいい傍役俳優になっている)。
(2005 4/15)
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初々しいヤンキー系恋愛映画 /「トゥルー・ロマンス」
『エターナル・サンシャイン』の感想に関してはマイノリティみたいです私。
私だって“胸キュン”したかったんだけど。
じゃあ私が「キュンときちゃう」恋愛映画は? ということで思い出すのは例えばこれ。
チンピラ青年と立ちんぼ娼婦の爽快な“純愛”もの。
クリスチャン・スレイターとパトリシア・アークェットの(トニー・スコットにとっても)最高作だと思う。
タランティーノが生まれて初めて書いた脚本なんだそうだけど、彼のヒロインたちの原点、究極の姿が描かれている。
あくまでも強く、どこまでも健気。
プラスティックのへなへなワイン・オープナーだけを武器に殺し屋に向かっていく非力で血まみれのP・アークェットが感動的に素晴らしい。
『グロリア』のジーナ・ローランズに匹敵する闘うヒロインじゃないだろうか。
ハンツ・ズィマーの木琴を使った牧歌的なテーマ曲、C・スレイターを体を張って守る父親役のデニス・ホッパーや冷酷なマフィア役クリストファー・ウォーケンの“オジサンの色気と凄味”も忘れがたい。
(2005 4/15)
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記憶のイガイガ /「エターナル・サンシャイン」
まず、カメラがそそらないのだ。
官能的でもロマンティックでもなく、
疾走感もなければ優美さもなく、
息苦しいような緊密さもないし、せっかく冬の海や凍りついた川を登場させながら冷たい風が吹き込んでくるような空気感・開放感もない。
ゾクゾクするような新しいカメラアイも、懐かしいタッチもない。
脚本と演出もあまりそそらない。
“時制”を上手く扱った映画(『市民ケーン』『パルプ・フィクション』など)は好きだけど、この作品は小器用にまとめていて驚きやダイナミズムに欠ける。
セットを最大限に生かしたスタイルはなかなかいいのだけれど。
才子才に溺れるというが、カウフマンの脚本には今回は溺れるほどの才も感じられず。「天才」でなく「才子」だからだなぁ、結局は。
こうなると作品のチャームは俳優にかかってくるわけだが、彼らにもそそられない。
もさっと垢抜けないのがジム・キャリーとケイト・ウィンスレットの持ち味とはいえ、主役のどちらかにもう少し軽やかな華が欲しかった。
あまりにも好きだったから辛い、その記憶を消したい、いややっぱり消さないで…という気持ちはとてもとてもわかるのだが。
記憶を消せず、記憶に責められて、瀕死の状態のまま「生きていればきっとまた会える」(希望と呼ぶにはあまりにささやかな、でも強い希望)とつぶやくウォン・カーウァイ映画の方に、私はずっと力づけられる。
(2005 4/7)
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アルゼンチンの香港飯 /ブエノスアイレス
トニー・レオンはいつでもどの映画でも、ひとり猫背で香港メシをかきこんでいる。ブエノスアイレスに来たってそうだ。
ロードムービーになるかと思わせながらそうはならず、ウォン・カーウァイ(とクリストファー・ドイルのカメラ)はブエノスアイレスを接写で香港の下町のように撮る。トニー・レオンが居れば何処でも、そこがカーウァイの世界なのだ。そしてまた、“ロード”に出なくても「動いている」感じが途切れないのがカーウァイの世界。
私はドイルの撮る滲んだような赤いネオンと夜明け空の淡いブルーが大好きだけれど、この映画では時々挿入されるマット・ゴールドに近い「黄色」が印象的だ。
ゲイの泥沼恋愛映画として公開当時は観客の拒絶反応も大きかったようだが、深く深く、どうしようもなく誰かを好きになったことがある者なら胸を衝かれるものがあるのではないだろうか。
旅立つ職場の後輩(チャン・チェンが初々しさとスケール感を漂わせとてもいい)に「テープレコーダーにメッセージを入れて」と渡され、吹き込もうとして嗚咽してしまうレオンの演技が素晴らしい。
小さな小さな希望がかすかなかすかな幸福感を生むラストの余韻は『天使の涙』に通じるものがある。
(2005 4/5 文化村ル・シネマでカーウァイ特集として上映)
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重慶マンションから遠く離れて /「2046」
一人の女の記憶に囚われて、ゆるやかに自殺していく男の物語である。
「哀しみの男」という美しい形容詞で語られるトニー・レオンは、ワタシ流に言えば「(二枚目で主役なのに)いつもしてやられる男」だ。
そんなツイテない男の顔と佇まい、一人の映画俳優の特権的存在感が『2046』という映画を支え、物語を支え、輝かせている。
カーウァイにしては冗長な構成も、クリストファー・ドイルにしては“手馴れた美しさ”を感じさせてしまうカメラワークも、結局“例のキムタク”でしかないキムタクも、むしろ無くてもよかったような劇中劇も、トニー・レオン演じるカーウァイ映画ということで万事OK!になってしまう(いわゆるスター映画という意味ではなく、だ)。
すれ違う恋人たちを描き続けてきたカーウァイ作品だが、『恋する惑星』『天使の涙』の疾走感とさらさらしたリリシズムは『2046』には無く、深い深い深い悲しみが静かに強く豪奢に描かれる。
あまりにも悲しいので、カーウァイ映画を時系列で(遡って)再見したくなった。
※『花様年華』同様、チャイナ服と赤い口紅&ネイルの女優たちが艶やか!
(2004 11/3)
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ニコラス・ローグはこの処女作だけでいい。かも。 /「WALKABOUT」
オーストラリアの砂漠に放り出された14歳の英国人少女と幼い弟が、成人の儀式として放浪するアボリジニの少年に出会う。
その地に生まれその地に還っていく者(少年)、旅人/通過者(少女)、そして彼らの“通訳者”(弟)との共感と齟齬に満ちた旅が寡黙に濃密に語られる。
ディスカバリーチャンネルの野生動物ドキュメントとラファエル前派の絵画が融合したようなカメラワークが鮮烈だ。
無邪気でありながら「見るべきほどのことは見つ」とでもいうような不思議な表情を見せる弟(監督ニコラス・ローグの実の息子である)が素晴らしい。
(2004 8/21)
WALKABOUT 美しき冒険旅行 プレミアム BOX [DVD]
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