スパイ仕様のPCって? /「007/カジノ・ロワイヤル」

Mを気取れば、「及第よ、でも次は更に上手くやりなさい」。

これの前にDVDで見た映画版『マイアミ・バイス』の駄作ぶり(もたもた弛緩した編集、主役コリン・ファレルのチンケさ)と比べれば、ずっとスマートに上手くまとまっている。


オープニングタイトルに関しては疑問。大いに疑問。それ自体は洒落た出来だが何しろ“スウィンギン・ロンドン”風で、『ジョアンナ』や『ナック』、あるいは007のパロディ映画が始まりそうなラヴリーさ…。
テーマ曲も萎える。歌不要。ジョン・バリーの不朽のインストだけでよござんす。


圧巻は『ヤマカシ』orジェット・リーを彷彿させる冒頭のチェイス。ボンドに追われる男の体技が目を見張る見事さ。何か賞あげたい(実はこの映画一番の見せ場はここだったり)。


ダニエル・クレイグは評判通りショーン・コネリーに次ぐ名ボンドだと思う。スーツの着こなしも素晴らしいブリット・セクシー。
しかし駆け出し時代のボンドって結構ポカだらけ、結果オーライなだけじゃないか?カワイタクヤのレビュー「VAIOを使うスパイなんて興醒め」というのも確かに。笑。


エヴァ・グリーンはやはりこういう派手な作品のヒロインには小物すぎる。『エントラップメント』の頃のキャサリン・ゼタ・ジョーンズなら最高だったろう。

ジャンカルロ・ジャンニーニおじさん(生きてたのか)が相変わらずラテン・ラヴァーのダンディさでヒロインの分も華を補っている。
(2007 1/4)

幻の映画と再会! /「アルターフ 復讐の名のもとに」

※2000年にインドで見た映画について、再見せずに書いてます。


もう一度見たい…と6年越しで切に願っていた作品がDVDに。わーい!

原題は『Mission Kashmir』。文字通りカシミール紛争をネタにしたアクション超大作。コーチンという街で食堂のおじさんに薦められて見たのが、当時大々ヒット中のこの作品。

ランボー』×『ミッション・インポッシブル』みたいな派手なアクション(侮れないの、これが)、父と息子の愛憎劇(いいねー)、ラブロマンス(控えめでよろし)にミュージカル(やっぱり…)。映画的要素てんこ盛り。字幕無しでも理解できてあれだけ愉しめた映画は初めてかも。


爆薬量もロケもカメラワークも壮大なスケール感に充ち、サスペンスの勘どころも泣かせのツボも心得ている。
しかし。それなのに。悲劇を予感させる緊迫したシーンで、クールでダンディな将軍が突如「パッパドゥビドゥビ♪」と歌いながら踊りだす。満員の巨大シネコンだったのに笑う人は皆無。やっぱりあれがデフォルトなんだな、向こうでは。

笑えて(ごめんなさい)、泣けて、手に汗握って、「!?」とあっけにとられるボリウッド・ムービー。素晴らしい。


将軍(父)に扮するのはサンジャイ・ダッドという大スター。濃厚に濃厚を重ねて濃厚でコーティングしたようなおじさま。しかし包容力と色気と毒気を感じさせてカッコイイ。「ちょいワル」カコワルイ。

このサンジャイさん、つい最近Yahoo newsに「90年代の爆弾テロに関与の疑いで逮捕」とか出てました。ほんと濃いなぁ。
(2006 12/17)

ウジウジしてこそ男じゃけん /「ウィンター・ソング」

「男はいつでも恋ではアマチュアだ」 (『隣りの女』byトリュフォー
…みたいな映画でしたよ、またまた。


ミュージカルというよりコテコテの恋愛映画。
ミュージカルというよりコテコテの香港歌謡映画(ジャッキー・チュンの歌は聴きモノ)。

チャン・ツィイーチャン・イーモウ監督の関係をなぞってる?と下世話な想像をかきたてるところもあり。


ミュージカルとしては中途半端です。凡庸です。スケールちっちゃいです。ハリウッドスタイルとは異なる、京劇+雑技団+フェリーニ的祝祭…みたいな映像を期待してたんだけどMTV風味でした。

クリストファー・ドイルのカメラも、北京の寒々とした風景より、やっぱり香港の冷房の無いアパートや雑踏で本領発揮するんだなぁと再確認。


チャングム』のチョンホさま(きゃん♪)ことチ・ジニが『ベルリン・天使の詩』を思わせる天使役で登場するも、これはミスキャストだった気が。監督(製作者?)は彼がチョンホさまで確立した“見守らせたらアジア一”なイメージをそのまま拝借したというか、中華圏でのチャングム人気を当て込んで起用したんじゃないかしらん。しかし。重い恋愛話をふわっと浮揚させるファンタジックな役回りなのに、その“ふわっ”に重力を与えちゃう、“絵空事”が似合わない人なのですね、彼って。


天使の涙』から10年経ってもイノセントな男の子っぽさを失わない金城武
逆に、時として邪魔になっていた童顔がいい感じに老けたジャッキー・チュン
対照的だけどどちらもなろうとしてなれるものではない、困難でスペシャルなその二人の在り方を味わうのが『ウィンター・ソング』のおススメ鑑賞法です(劇中劇でのキャスケットにぼろコート姿の金城くんが家なき子みたいでチャーミング。あれで30代って…)。


ジョウ・シュン(この人もチャン・ツィイーより年上なのにもっと少女っぽい)のファッション&アップ・パーマ・ボブ・ショートとくるくる変わるヘアがとても素敵。北京の貧乏娘時代のダサイはずの衣装も可愛いったらない。miu miuのキャンペーン広告以上に綺麗でした。
(2006 11/29)

ウィンター・ソング [DVD]

ウィンター・ソング [DVD]

「泣ける」だけが「感動」じゃないじゃん /「ナイロビの蜂」

せっかちなところのある私は疾走感溢れる映画が好き。
だけどこの作品を流れる時間、その悠揚迫らずかつ弛緩することのないテンポは実に心地良く、久しぶりに映画を「堪能」したという気がした。

正統派メロドラマと、サスペンスと、搾取され続けるアフリカ大陸の悲惨と。分離しそうな危うい三つの要素が(あくまでもエンターテインメントとしての枠組みの中で)違和感無く収まっている。

“涙とセットの感動”とは異質なImpressionを味わわせてくれる、最近では稀少な作品だ。

シティ・オブ・ゴッド』の監督ならではというか、疲弊と熱気を同時に感じさせるキベラ=巨大スラムの描写と、薔薇色の湖や広大な草原との対比も印象的。


他部族の襲撃から逃れて国連のセスナに乗りながら、職員以外は連れていけない、いや連れていけ…という男たちのやりとりのさなかに自らある行動をとる幼い少女の姿が胸に迫る。かつて私がエリトリアの難民キャンプで出会い、何も力になれなかった(ならなかった)子供たちのことが否応無く思い出された。


難点があるとしたらヒロインのキャラクター。純粋で聡明ということらしいが「聡明」に関してはかなり疑問、美人であることに救われているだけとも言える、ある意味かなり嫌な女なのだ。 登場シーンではヒステリックに正論を言い募った挙句泣き出し、パーティーでは政治家や企業家に無駄に挑発的な皮肉を投げつける。巨悪に立ち向かうつもりならあまりに感情的で浅はかだ。 勇気とヒューマニティだけでなく、知恵も人脈もワイロも、持てるもの全てを総動員して闘った『ホテル・ルワンダ』の主人公には共感できたけれど。


ビル・ナイは『ラブ・アクチュアリー』の泉谷しげる+キース・リチャーズ的な老ロッカーから今回の冷酷なエスタブリッシュメントまで、見事な千変万化を見せてくれる。


ジョン・ル・カレによる原題『The Constant Gardener』と邦題、どちらもウマい珍しい例だ。
(2006 11/27)

ナイロビの蜂 [DVD]

ナイロビの蜂 [DVD]

女の子って、野太くて健気 /「フラガール」

映画見巧者の友人が「10年に一度の傑作」と書いていたので期待しすぎちゃったかも。
私の評価は「傑作ではなく佳作」。佳作と呼べる映画だってそうそう転がってはいないけど。

ウェールズ炭坑モノ映画”には何故か佳作が多いのだが(『リトル・ダンサー』や『フルモンティ』、古くは『わが谷は緑なりき』等々)、日本版も堂々仲間入りしたと言えるかな?


丁寧な時代考証による美術が見もので、昭和の炭鉱町の光景が(おそらく)リアルに再現されている。
その質実な仕事の中でちょっと浮いているのが安野ともこスタイリングによる松雪泰子のファッション。とても可愛いんだけど、(松雪嬢がモデル系美人ということを差し引いても)あれはどう見ても今時のオシャレ女子が60年代ヴィンテージでキメてみましたの図だ。映画会社のベテラン衣装さんに任せればよかったのに。


役者はみんな好演。いつだってアベレージ以上の岸部一徳は、更に突き抜けた名演を見せている。ちょっとトウのたったフラガールを演じた大人計画池津祥子もいい。

蒼井優が絶賛されているが、彼女の演技や“少女性”にはあまりフレッシュさを感じられなくて、それより友人・早苗役の徳永えりという女の子の初々しさに注目。彼女の「今まで生きてきた中で一番楽しかった!」(と、南海キャンディーズしずちゃんの「踊らせてくんちぇー」)にはグスグス泣きました。


松雪泰子のダンスが見事だったので、彼女のフラ衣装でのステージも見せてほしかったなぁ。
(2006 11/27)

可愛いだけじゃダメかしら /「プラダを着た悪魔」

ザ・OL映画。
That's all.


きっちり責任を負って本気で仕事をしている女性にはヌルイ映画だと思う。
ほどほどに真面目に働き、ほどほどに甘え、会社の愚痴に花を咲かせている女子を「もうちょっと頑張ろう!」と一瞬前向きにさせる…そのへん狙いですな。


予想に反してこの悪魔のような上司ミランダは部下を育てないんですの。背中で導くとか厳しいけど筋が通ってるとかではなく、理不尽な公私混同にもついてこられる者だけついてきなさい!方式。

悪魔に従うヒロインも元々優秀で努力家でかつモテ系だから(サポートを申し出る男性が沢山)、成長物語としてのカタルシスはあまり味わえないのよねー。


まあ、ヒロインのファッションが素敵だし、テンポもいいから楽しく見られます。

正しい役を正しく演じる重厚女優として全然そそらなかったメリル・ストリープを初めて好きになれたし。シリアスな演技より、これぐらいデフォルメの効いたエリート・ビッチ役の方が魅力的。

しかし最大の功労者は、およそ「ファッショナブル」「洗練」とは縁遠いタイプのアン・ハサウェイとメリルをあそこまで垢抜けさせたスタイリストのパトリシア・フィールドでしょうね。


◆[個人的思い出]
ちょっと昔。フランス版電通みたいな会社と仕事をしていた頃、パリのホテルのバーミランダのモデルと言われるアナ・ウィンターを見かけました。日本のファッション誌にばんばか載りだす前だったけれど、女子力ならぬ「女史力」でかなり目を惹く人だったのは確か。 私と一緒にいたフランス人のおじさまが(彼はアナと顔見知り)「彼女は究極にエレガントだ、まがい物としては」ということを言っていたのが印象的。

(2006 11/27 飛行機内にて鑑賞)

緑色のエロス /「欲望の翼」

驟雨に煙る緑の森。
ザビア・クガートのルンバの調べ。
片想いのロンド。
それに尽きる映画だ。


カーウァイとクリストファー・ドイルの名を知らしめた60年代トリロジーの序章。『恋する惑星』『天使の涙』に先がけたカーウァイ的青春映画の序章でもある(デビュー作『今すぐ抱きしめたい』は日活アクション映画風で毛色が違う)。

「青春」だから、アジアの湿度だから、登場人物がみな自分の中の柔らかさを持て余しているから、映画は終始、瑞々しく濡れている。


インファナル・アフェア』でトニー・レオンを陥れて私の怒りを買ったアンディ・ラウ(ちゃっかりアンディとうっかりトニー…)、彼を好ましく思えた数少ない作品でもある。いつもは鍛え上げた体に隙の無いスーツの似合う彼がここでは寡黙で優しいパトロール警官の役で、寸の詰まったアイドル顔の主役レスリー・チャンより遥かに魅力的なのだ。

アンディと失恋娘マギー・チャンが夜道を歩きながらつかの間淡く心を寄り添わせるシーン、彼が彼女に言う「人と比べることなんかないさ」という使い古された言葉の暖かさが胸に沁みる。


香港の猥雑な熱気が次第に亜熱帯の官能的な緑色に染め上げられてゆく99分。
(2006 10/26)

欲望の翼 [DVD]

欲望の翼 [DVD]

大人になった。映画になった。 /「インサイド・マン」

スパイク・リーは(オリバー・ストーンも)「映画を撮るのでなく“テーマ”を撮る監督」という感じで嫌いだった。
でもこの作品で印象修正。ちゃんと「映画を撮って」いるじゃないか。

ここのところめっきり「スパイクといえばジョーンズ」みたいな流れになっていたが、ジョーンズ(と元妻ソフィア・コッポラ)の小賢しいアート系「キッズ」ムービーより彼の方がやはり映画監督の資質なんじゃないかな。


というわけで、いい意味で大人な、なかなか小気味良いクライムムービー。『ユージュアル・サスペクツ』あたりが好きな人にはお薦め。


淡々とした映像ながら疾走感に溢れた引き締まったオープニングはカサヴェテスの『グロリア』を彷彿させる。 …誉めすぎだな。
中盤から演出と脚本の手綱が緩んでくるのが惜しいが、役者たちのアンサンブルが見事なので持ちこたえる。


アビエイター』ではあまりにもチョイ役だったウィレム・デフォーが復活、見せ場の無い役なのに主役陣を凌駕する存在感を放つ。
ジョディ・フォスターは「高圧的なエリート・ビッチ」専門女優になってしまったんだろうか。適役だが、『羊たちの沈黙』での張り詰めた健気さが懐かしい。
『キンキー・ブーツ』で魅惑の大主役だったキウェテル・イジョホーはとても普通に「主役刑事の相棒」を演じていて別人のよう。彼には今後も注目だ。
残念なのは肝心の「インサイドマン」クライブ・オーウェン。殆ど覆面姿だからこそ、もっと華や凄みが無いとね。


オープニングの曲=A・R・ラフマーンの『チャイヤ・チャイヤ』は実は我が思い出の曲(昨日題名を知りました)。6年ぶりに突然耳に飛び込んできて鳥肌が立った。2000年にインドやアフリカに行った時に大流行していた曲で、当時はコミカルな曲だと思っていたのだが、いやー、かっこいい曲だったんだな。
(2006 10/23)

お父さんモノ映画としては悪くない /「グエムル」

2004年に見た映画でベストだったのがポン・ジュノの『殺人の追憶』。はがゆい宙吊り感の、“気持ち悪さが気持ちいい”傑作だった(これとパク・チャヌクの『親切なクムジャさん』が私の韓国映画2トップ)。


彼の新作ということで期待MAXで見たのだけれど…もうひとつでした。


色んな人が色んなところで書いていることども=アメリカVS韓国(あるいはイラク北朝鮮パレスチナ)の戯画であるとか、浦沢直樹20世紀少年』の影響とか、ポール・バーホーベン入ってるとか、ここぞという所で敢えて“はずし”てみせるスタイルとか、監督の語る「極限でも人は笑う」とか…それらはみんな「そうよね」ではあるんだけど。

殺人の追憶』に比べると笑いもサスペンスも意図的でやり過ぎ(やらなさ過ぎ=微妙で笑えないという感想も多く目にしますが)。大好きな役者ソン・ガンホもいつもよりやや「過ぎ」てる感じ。


それでも、土砂降りの中ガンホと父親が切迫した目で無言で語りあう唐突にかっこいい(?)シーンとか、奇妙で暖かい家族全員集合の「晩餐」とか、火炎瓶攻撃とか、ラストシーンとか、忘れがたい絵は幾つもある。

一番好きなのは、ガンホが学校から帰ってきた娘の後ろをついて歩きながら、重そうなリュックを下からちょっと持ち上げてやるところ。彼のアドリブにせよ演出にせよ、あれは素晴らしいですよ、もー。


殺人の追憶』のお公家さん顔の容疑者役が強烈だったパク・ヘイルが全く異なるタイプを演じていて意外なまでの良さ。追われる身になった家族の中で唯一ニュースで取り上げてもらえない彼に、妹があっさり「特徴がないからよ」と言い放つシーン、あそこで、『殺人〜』の「普通の人だったわ」を思い出す人は思い出すでしょう。


パク・ヘイルが携帯会社から脱出するくだりやペ・ドゥナが巨大な鉄橋の上を走っていくシーンを見て(どちらもさらりと描かれているが)、ポン・ジュノって普通にアクション映画を撮ってもイケるんじゃないか?と思った。
(2006 9/18)

子供はつらいよ /「Dearフランキー」

“映画の友”であるカワイタクヤの評が五つ星だったので見てきた。

ウェールズスコットランドは、子供をダシにしない良質な子供(が主役の)映画が巧いなぁ。

この国らしい曇天やひんやりした空気、かつては活気づいていただろうけれど寂びれだした街並み、そういうものが丁寧にカメラに捉えられている。

ラストの手紙でまんまとウルウルしながら「子供っていうのはそうなのだよねー、実は」と自分の子供時代を思い出したり。

謎の男は謎のままでいてほしかったのと、少年の母役の女優に魅力が無いのが残念。他の役者は皆いい感じなのだが。
(2005 7/11)

Dearフランキー [DVD]

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